中山間地域における木質バイオマスガス化発電について

河合です。先々週のことですが個人的に島根県の津和野町を訪れまして、役場の農林課の方から「木質バイオマスガス化発電」の計画に関するお話を伺ったのでご紹介させていただきます。乱文、長文とは存じますがしばしお付き合いいただければ幸いです。


さて、まずバイオマスとは、「生物(bio)の量(mass)」を組み合わせたことから分かるように、生物由来の有機性資源(化石燃料を除く)を指す言葉です。具体例としては今回扱う木材の他にも稲藁や家畜の糞尿、廃紙、生ゴミなど様々な種類があります。よく耳にする「バイオエタノール」は、バイオマスであるサトウキビやトウモロコシなどを発酵させエタノールを生成し、主に自動車の燃料として利用するものですね。これらの資源は使う速さよりも再生速度の方が速く、枯渇することのないエネルギーだとして「再生可能エネルギー」とも呼ばれています。そして今回訪れた津和野町では、木材(間伐材)を用いて発電を行う「木質バイオマスガス化発電」を利用し、エネルギーの地産地消を推進しようとしています。

次に津和野町でエネルギーの地産地消が必要な背景について、図1をご覧ください。津和野町は島根県の西端に位置する中山間地域であり、2010年からの30年間における2039歳女性の人口減少率が50%以上である「消滅可能性自治体」にも指定されています。「山陰の小京都」と呼ばれ観光業の盛んな津和野町ですが、観光業以外に目立った産業がなく、大規模農業や近郊農業を行う土地柄でもないため産業が十分に育成されているとは言えません。したがって他の中山間地域と同じく高齢化や自然減・社会減による過疎化が進む中でも、可能な限り地域内で経済活動を回す、いわゆる地産地消の方向で自治体として生き残りを図っているのです。

図1

次は具体的なシステムの話です。木材を発電に利用する場合、木材を直接燃焼させる方法とガス化する方法の主に2種類がありますが、燃焼の場合は効率の面から5000kW規模の施設を作らなければ採算が取れないため町外からも木材を運び入れなくてはならず、輸送コストを考えると現実的ではありません。そこで津和野町ではガス化によって発電効率を高め、1000kW規模で経営を成り立たせることを検討しています。仕組みについては図2を載せましたのでご覧ください。仕組みは正直さっぱりだったのですが、簡単に言うとホッパーに木質チップを用意して燃焼しないよう温度・圧力調節を行ってガス化、その後ガスエンジンで電気と熱が生成されるのだと思います。問題点としてはガス化の温度・圧力調節や、ガス化の過程で生成されるタールの処理が難しいことなどがあり、当初予定していた日本の企業(500kW×2基)は技術の確立が遅れ、フィンランドの企業(日本の支社も設立、40kW×25基)の機械を使うことになったようです。この機械は電力の供給が無い別荘地のために開発された経緯があり、日本よりも長期間研究が行われエネルギー効率も良く、技術的には信頼度が高いそうです。
このような過程で発電を行った後は、FIT制度によって中国電力に高値で買い取ってもらうことができます。

図2

さて、上記のようなシステムで発電を行うわけですが、このシステムが成立するにはいくつかの課題を解決する必要がありますので、以下ではその一部をご紹介したいと思います。

まずは木材の切り出しについて、発電用の木材の切り出しや乾燥を行う専門業者を設立するのは勿論ですが、津和野町は町面積の約6割が私有林であるため、山林を所有する町民が自ら発電所に木材を持ち込むことも想定しています。しかし、例えば1tの木材を切り出しても3000円ほどの収入にしかならず、切り出しの労力を考えると採算が取れません。そこで町は独自に補助金(地域通貨券)を設け、3000/tを上乗せすることで採算が取れるようにするそうです。ただ、私有林は持ち主が分からない、相続の関係で持ち主が町内にいない、木材を運び出す林道がない、土地の境界が曖昧で林道を整備することができないなど、木材を切り出すための仕組みが整っているとは言えず、現在はその仕組み作りに追われています。その過程でGISも利用されているようですが、基となる林地台帳も境界などが曖昧であるため難航はしているようです。

次に発電と同時に生成される熱について、これが一番と言っていい課題だと思うのですが、実はこの機械で生成される熱エネルギーは約100kW(電気は40kW)もあり、この熱を有効活用する方法を考えなくてはなりません。この機械の提供元であるフィンランドではパイプを通して家庭に熱を供給し、冬場の暖房として使用するなどの方法があります。しかし、今回の計画では発電機は町の中央部に位置する発電所1ヶ所にまとめて設置するため、パイプで熱を各家庭に供給するというのは距離的に現実性に欠けます。したがってこの熱の利用は木材を発電機に入れる際の乾燥に使用されるそうですが、その他の利用方法も検討していくべきだと思われます。では集落単位で発電所を分散して設置したらどうか、と思われるかもしれませんが、実は木材の乾燥にとても手間がかかるため、一つの乾燥所で処理を行った方が効率が良く、集落単位での導入は今のところ難しいそうです。ただ将来的には集落単位での導入も検討しているようで、各家庭に熱供給ができるようになれば、エネルギーの地産地消という概念にさらに近づけるのではないでしょうか。
その他にも様々な課題を抱えてはいるものの、このシステムが確立すれば、冬場にあまり農作物が育たないために別の職を探す町民にとっては冬場の仕事の提供が可能ですし、今まであまり手入れがされてこなかった森林を守ることにも繋がりますので魅力的な計画だと思います。


最後に、中山間地域が都市と同じような資本主義競争社会に身を置く必要は無いわけで、町単位で経済を成立させることは今後過疎が進むことも考えれば一つの選択肢になりうるのではないかと思います。また人口減少が最も著しい地域だからこそこのような話に先進的に取り組み、それに呼応して若くて優秀な人材が集まっていくというのは素晴らしいと思いますし、実際に見て頭が下がる気持ちで一杯になります。
あとは余談になりますが今回の計画を進められている方は総務省の地域おこし協力隊制度を利用した大学生だとお聞きしまして、23歳年上の方とはいえ同じ大学生でこのような活動をされていることはとても刺激になりました。また今回の訪問に時間を割いてくださった津和野町役場の方々に深く感謝を申し上げます。

それでは。

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